COLUMN

2023.1.10

映画

日本大衆文化開放第一号映画「家族シネマ」

私はフリーランスで仕事をしながら、韓国で大学院にも通っていて、研究テーマとしては日韓文化交流、なかでも映画を中心にやっている。日韓文化交流の大きな節目の一つは1998年から韓国で段階的に進められた「日本大衆文化開放」だ。

逆に言えば、それまで韓国では日本の大衆文化の流入を制限していた。そしてつい最近まで、韓国で日本大衆文化開放後公開された第一号の映画は北野武監督の「HANA-BI」(1998)だと思っていた。が、実はパク・チョルス監督の「家族シネマ」(1998)だということが分かった。原作は在日コリアンの柳美里の同名小説。芥川受賞作だ。

「HANA-BI」は日本映画だが、「家族シネマ」は韓国映画。ではなぜ制限/開放の対象なのかと言えば、それまで日本映画だけでなく、日本の俳優が出ている韓国映画も制限されていたからだ。「HANA-BI」は開放後公開された日本映画の第一号には違いないが、実はその少し前に公開された韓国映画の「家族シネマ」が、開放によって公開された最初の映画だったということだ。

日本映画だけでなく、日本の俳優が出ている韓国映画もダメだったというのには、ちょっとびっくりした。このことを指導教授に話してみたら、「『家族シネマ』って日本映画じゃなかったの?」と言われた。そう思っている人が多いようだ。なぜなら、出ている俳優が日本の俳優で、舞台も日本だから。もちろんセリフも日本語だ。一見、日本映画に見えるがスタッフは監督をはじめ皆さん韓国人。

誰が出ているのかと言えば、在日コリアンの小説家として知られる梁石日、柳美里の実妹の柳愛里、伊佐山ひろ子など。私はこの映画の存在は知っていたが、見たことがなかったので、日本でDVDを購入して見てみた。

見る前に調べていて、評価はあまり高くないということは知っていた。映画としてよくできているとは言い難いけども、個人的にはおもしろかった。

何がおもしろいかって、梁石日さんのいい加減なお父ちゃん役の演技。関西弁と標準語の混ざったようなしゃべり方で、いちいち胡散臭いけど憎めない。ぎこちなさは、映画の中で映画を撮っているという設定上なのか、素なのか(プロの役者ではないので)、分からないけど終始ニタニタしながら見てしまった。それに加えて、監督役の金守珍さん。新宿梁山泊代表で、俳優でもあるけど、演出家として知られる。その金守珍さんが監督役をやっているから、これまた演技なのか素なのか。金守珍さんは近年インタビューやミーティングなどで直接お会いする機会があり、若い金守珍さんを見るのも個人的には新鮮だった。

映画の内容については原作小説もあるのでここに詳しくは書かないけれど、パク・チョルス監督の当時のインタビュー内容を少し紹介する。

梁石日さんのキャスティングについては「ドキュメンタリー的に撮るには、あまり滑らかに演技する人よりも、どこかぎくしゃくする人のほうがいいと思った」「梁石日さんに注文したことは、きっちりセリフを覚えなくていいから、ごく普通にやってください。固くならないで楽にやってくださいということだった」

梁石日さんの印象については「『血と骨』は凄まじい話のようですが、そんな作品を書く人がこんなユーモラスな人物なのかと思った」

と述べている。私も梁石日さんに会ったことがあるけども、在日の大御所作家というイメージだったので、こんなコミカルな演技をやっていたというのは衝撃だった。

ちなみに、金守珍さんは梁石日の小説『夜を賭けて』を2002年に映画化したが、これは日韓の俳優が共演し、韓国で撮影された。

日本大衆文化開放は韓国で日本の映画が見られるようになっただけでなく、日韓合作が増えるきっかけともなった。その最初の例が「家族シネマ」だった。

2023.1.3

グルメ

「大阪に住む人たち」が大好きなてっちり

「大阪に住む人たちTV(오사카에 사는 사람들 TV)」というユーチューブをご存知だろうか。韓国では数ヶ月前から会う人会う人に「見てます」と言われる。これが数年前はテレビ東京の「孤独のグルメ」だった。いずれも私は関係者でも何でもないのだが、日本人を見ると言いたくなるようだ。共通点は「食」で、地元の人が行くような飲食店を紹介する。

「孤独のグルメ」は松重豊演じる井之頭五郎が一人でお店に入り、独り言ちながらご飯を食べるドラマだが、韓国でも字幕付きで放送され、人気を呼んだ。一方、「大阪に住む人たち」は、そもそも韓国語で発信している。「松田部長」と呼ばれる日本人男性が大阪かいわいのお店に入り、カメラマンや同行しているスタッフ(同僚?)に語りかけながら食べるのだが、その松田部長の韓国語があまりにも流暢なのだ。

私に「見てます」と言ってくる人も必ず「彩より韓国語がうまい」と言う。見てみたら、確かにめちゃくちゃうまい。自信たっぷりに、食にまつわるうんちくも語ってくれる。というわけで私も韓国にいる間にはまってしまい、「今度大阪に戻ったら、『大阪に住む人たち』に出ているお店にいってみるぞ」と心に決めていた。

紹介されている数あるお店の中から今回行ったのは、「ふぐくじら」というお店。その名の通り、ふぐとくじらのお店で、「え、くじら?」とも思ったけど、今回は松田部長が勧めるふぐのコースに専念した。場所は道頓堀からまあまあ近いけども、路地裏で、観光客が探すのはちょっと難しそうだが、案の定、韓国の若者がたくさん来ていた。スマホの地図を見て探すのは地元大阪人も外国人も同じのようだ。

ふぐを選んだのは、大阪と言えば、ふぐだから。これは松田部長も強調していたけど、大阪の人はふぐをよく食べる。ふぐの王様とも呼ばれる「とらふぐ」の消費量は日本一で、全国の約6割を大阪で消費しているそう。

私が行ったのは1月2日で、お店やってるかなと思いつつ元旦に電話してみたら、騒々しい中で店員が電話に出たので、たぶん元旦もやってたみたい。

よく食べると言っても高級なので、そう気安くは食べられないが、「ふぐくじら」はまあまあリーズナブルだった。皮湯引き、てっさ、唐揚げ、焼きふぐ、てっちり、雑炊というふぐ三昧のコースを注文し、お腹がはちきれそうなくらい、たらふくふぐを食べた。焼きふぐは初めて食べたけど、にんにくたっぷり、唐辛子もかかっていて、韓国の人が好きそうな味だった。

これは中央日報のコラムにも書いたけど、大阪でふぐの鍋料理を「てっちり」と言うが、韓国でも「ポクチリ(복지리)」と言う。韓国語のチリは、赤いスープに対して赤くないスープを指すのだが、どうも「てっちり」から来ているようだ。もっと言うと、フグを「ポク(복)」「ポゴ(복어)」と言うのも、発音が似ている。どっちが先かはともかく、大阪は韓国と行き来の多い都市で、やはり食文化も韓国と共通しているところが多々ある。

ちなみに韓国では「明けましておめでとうございます」を「セヘ ポク マニ パドゥセヨ(새해 복 많이 받으세요)」と言うが、直訳すれば「新年、福をたくさん受け取ってください」。福もフグも同じ発音の「ポク(복)」。なんとなくお正月だし、ぷっくりふくらんだふぐを食べるのは縁起が良さそうと思ったけど、ぴったりの選択だったと今書きながら気付いた。