COLUMN

2023.3.2

言語

『世界のふしぎな色の名前』翻訳家対談

2月に発売された『世界のふしぎな色の名前』韓国語版、翻訳したパク・スジンと成川彩が振り返りました。

 

パク・スジン(以下、スジン): 最初に『世界のふしぎな色の名前』の翻訳について依頼が来た時、やろうと思ったポイントは?

 

成川彩(以下、彩): 色についての小話がおもしろく、訳しながら色についてのいろんなエピソードを調べるのも楽しそうだと思った。スジンは?

 

スジン: 最初、試しに三つの色についての話を訳した時、正直言って一つ一つが短くて、おもしろい翻訳作業になりそうだと思った。本格的に始めてからは、考えが浅かったとちょっと後悔した。

 

彩: どういう点で難しかった?

 

スジン: 色の名前の誕生についての話で、エピソードが明確で、情報を得られるものは良かったけど、抽象的だったり、「二人静」のような日本の伝統文化にまつわる話が難しかった。日本独特の色の名前を韓国語にいかに翻訳するかというのも迷った。

 

彩: それは私も迷った。例えば「昆布茶色」は、内容を読めば、昆布みたいな茶色で、昆布茶の色ではないんだけど、それを韓国語で「다시마차색」と発音通り訳してしまうと、「茶色」というのが伝わらない。結局、「다시마갈색」とした。何が正解ということはないと思うけど、できるだけ原文の意味を生かしつつ、韓国の読者に読みやすくというのを両立させるのが一番難しかった。

 

スジン: 私はオンニ(彩)と一緒に翻訳作業をしながら、そういう日韓の違いについてチェックを受けながら訳すことができて良かった。今回は翻訳期間があまりにも短くて、情報を調べる時間が十分になかったけど、オンニもその点で難しかったのでは?

 

彩: 実質、翻訳期間は一冊まるまるで1カ月半だったもんね。私もとにかく調べるのに苦労した。「鈍色」では『源氏物語』の引用部分があって、古語なので日本語でもどういう意味なのか解釈が難しいのを韓国語に訳すのは本当に難しかった。

 

スジン: 『源氏物語』とか『万葉集』とか、日本人なら当然知っている書物の名前を韓国の読者に対してどこまで補足説明するのかというのも悩んだところ。あまり補足説明が多くても読みにくくなるし、加えたり削ったり、基準を決めるまでに時間がかかった。

 

彩: 逆に翻訳していておもしろかったこと、あるいは新たに学んだことは?

 

スジン: 知らなかった色の名前について知るのがまずおもしろかった。例えば、醤油の色を「紫」ということ、特に紫は昔から高貴な色で、だから貴重な調味料だった醤油を「紫」と言う、というのもおもしろいと思った。江戸時代には紫の使用は庶民には禁じられ、似た色を工夫して作り出し、それを「似紫」と呼んだというエピソードなど、時代背景がつながって勉強になった。

オンニは日本語を韓国語に訳すなかで新たに学んだことがあった?

 

彩: そもそも、韓国の色の表現がとっても多彩で、例えば黄色でも、노란、노랑、노르스름、노리끼리、누런……などなど。それぞれどう使い分けたらいいのかよく分からず、もっと多彩な表現をしたかったけど、そこは私の韓国語力の限界だった。今回の翻訳を通して色に関する韓国語の語彙力はかなり伸びたと思う。

一番好きな色は?

 

スジン: もともと青が好きで、「ティファニー・ブルー」とも呼ばれる「ロビンス・エッグ・ブルー」。ロビンという鳥の卵の色なんだけど、ロビンという鳥は「幸せを運ぶ鳥」とされ、幸福感を味わえる色なのが良かった。

 

彩: 本が出来上がって、何人かにプレゼントしたら、中のカラフルな見た目にみんなが喜んでくれるけど、確かに「ロビンス・エッグ・ブルー」の鮮やかさは特に目を引くよね。

 

スジン: オンニはどの色が好き?

 

彩: うーん、「常盤色」かな。ちょっと地味な気もするけど、変わらぬ緑。自然いっぱいの高知で育った私には、やっぱり一番自然のベーシックな色が落ち着く。変わらないことへの安心。色の名前にもそれが表れていて、好きだな。

 

スジン: スジンと一緒に翻訳してみてどうだった? もともとオンニに来た依頼を私と一緒にしようと声をかけてくれたじゃない?

 

彩: スジンを翻訳家デビューさせたかった。正直、本当に翻訳期間が短くて、もっとゆっくり心行くまで調べたかったけど、逆にあっという間に本が出来上がって、こうやって手に取って見ると、達成感でいっぱい。しんどかったのも忘れて、またやりたいと思ってしまう。翻訳家デビュー、おめでとう!!!

 

スジン: 翻訳そのものは1カ月で終わらせないといけないスケジュールで(オンニがチェックする時間が必要で)、できるかどうか、不安でもあったけど、デビューさせようというオンニの気持ちが伝わってきた。大変だったけど、こうやって形になって、一番はオンニに感謝してるし、あきらめなかった私にも感謝(笑)